日本にいた頃のことです。自宅近所の本屋で、世界のすごいホテルを集めた一冊の本を立ち読みしていました。結局この本は買わずに来てしまいましたが、やっぱり気になって、マレーシアに来てから楽天のブックストアで電子書籍で購入することができました。
その頃、私たち夫婦の次の行き先は、マレーシアとほぼ決まっており、ページをめくる指が、自然とマレーシアのホテルを探していました。
マレーシアから選ばれていたのは、たった一軒。ランカウイ島の熱帯雨林の中に建つ、ザ・ダタイ・ランカウイでした。
■本当は、ずっと大きな木に憧れていました
思い返せば、私の「大きな木への憧れ」は、この本よりずっと前から始まっていました。
日本にいた頃、九州の県をすべて旅したことがあります。そのときから、屋久島に行ってみたい、あの大きな木をこの目で見てみたい、とずっと思っていました。結局、屋久島には行かないまま日本を離れてしまいましたが、巨大な木への憧れだけは、ずっと心のどこかに残っていたのです。
■マレーシアは、ふつうの道に大きな木が立っている国でした
マレーシアに来て驚いたのは、特別な場所に行かなくても、大きな木がそこらじゅうに立っていることでした。
いま暮らしているコンドミニアムの敷地内にもたくさんの木が植えられていて、ウォーキングをしながら眺めるのが日課になっています。
そして敷地の外、最寄り駅や近くのカフェに行くときに少し歩くだけで、太くて背の高い木が何本も、車道と歩道の間に並んでいます。どれくらい大きいかというと、夫と二人で手をつないで幹を囲もうとしても、届かないほど。根元では、根っこが舗装を持ち上げて、レンガを壊してしまっています。
おかげで歩道はガタガタ。早朝に、夫と歩くときは足元がよく見えなくて、こちらに来たばかりの頃はデコボコ道を歩いて腰が痛くなったほどでした。いまでは「この根っこの主はどの木かな」と見上げる余裕も出てきましたが。
ふつうの生活道路でこの迫力なのです。では、太古からの熱帯雨林が残る島では、一体どんな木に出会えるのか。そう考えると、いまから楽しみで仕方ありません。
■私の旅は、匂いを嗅ぎに行く旅です
もうひとつ、私が旅で大切にしていることがあります。それは、匂いを嗅ぐこと。
その土地の風、匂い、空気の感じ。私はそれを体験しに旅に出ているのだと思います。
何十年も前に、人は視覚タイプ・聴覚タイプ・体感覚タイプに分けられる、という話を聞いたことがあります。きれいな景色を見ることが何よりのごちそうという人もいれば、音や肌の感覚で世界を受け取る人もいる。私は明らかに、見るよりも、匂いや肌ざわり、音で世界を受け取るタイプでした。
それを実感したのが、少し前の台北旅行です。海外は久しぶりだったので、「移動の練習」と称して、1泊2日だけの短い旅に出ました。
いちばんの思い出は、観光名所でも食事でもありません。夜、ホテルの最寄り駅に着いて、そこからホテルまで歩いた、あの数分間です。夜の台北の匂い、肌に触れる空気の感じ。ああ、知らない街に来たんだ、と体のほうが先に分かった瞬間でした。
たった1泊の旅でも、不思議なくらい満たされて帰ってきました。あれはきっと、台北の空気を体いっぱいにまとえたからだと思います。旅の満足は、日数でも、見た場所の数でもないのだと、あの夜道が教えてくれました。
ランカウイで楽しみにしているのも、まさにそこです。雨上がりの熱帯雨林は、どんな匂いがするのか。何千万年も続いてきた森の湿った空気は、肌にどう触れるのか。朝のヴィラのテラスで深呼吸をしたら、何が胸に入ってくるのか。
あの本の写真がどんなに見事でも、これだけは行った者にしか分かりません。
■森のホテルは、日差しが苦手な私の味方
そしてもうひとつ。熱帯雨林のホテルは、日光アレルギーと長く付き合ってきた私にとって、理にかなった場所でもあります。
森の中のホテルは、深い木陰に守られています。ビーチリゾートのように炎天下を歩き回らなくても、緑の天蓋の下で自然を感じられる。鳥の声を聞きながら木陰のテラスで過ごす時間は、私のような体質の者にとって、いちばん贅沢な「自然との親しみ方」かもしれません。
大きな木は、見上げる楽しみをくれるだけでなく、私に日陰もくれるのです。
■半年後、誕生日に泊まることになりました
本屋であのページを眺めてから、半年。私はいま、本当にマレーシアで暮らしています。
そして今年の夏、私の誕生日に、あのザ・ダタイ・ランカウイに泊まります。しかも、憧れだったレインフォレストヴィラに2泊。森の中に点在するヴィラで、窓の外はあの写真と同じ熱帯雨林です。
その前には、泳ぎたいという夫の希望もあって、リッツ・カールトン・ランカウイにも2泊。全部で4泊のゆったり旅です。前半は海辺とプールで、後半は森の中で。一つの島の時間にじっくり浸かるような旅にするつもりです。
あまり期待を膨らませすぎて、あとでがっかりしないようにしないとな——などと、いまから自分に言い聞かせているところです。
■思い出のたくさん詰まった夏休みに
年を重ねてからも、憧れはちゃんと叶うことがある。九州の旅で芽生えた小さな憧れが、本屋の立ち読みを経て、半年後の誕生日につながることがある。
大きな木を見上げて、森の匂いを胸いっぱいに吸い込んで。
そう思うと、屋久島に行けなかった心残りも、ガタガタ道を見上げた日々も、思えばこの旅につながっていたのかもしれません。
しっかり森に親しんで、おいしいものを食べて、夫とのんびり過ごして。思い出のたくさん詰まった夏休みにして、帰ってきたらまたここで報告できればと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました🌿
🟡この記事を書いた人:タマキ
日光アレルギー歴17年。日差しが苦手なのに、縁あってマレーシアへ移住してしまいました。 動き回るせっかちな夫と、のんびり日陰を選ぶ私のシニア夫婦ふたり暮らし。
「快適にすごす工夫」を探しながら、日光アレルギーのこと、日々の暮らし、無理しない旅の記録を綴っています。
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